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┃01┃□ドキュメンタリー映画のかたち
┃ ┃■サンフランシスコで映画を学ぶ (3)
┃ ┃■黒川 通子
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●秋学期に学んだこと
9/15号で大雑把にご紹介しましたが、私がアメリカで初めて参加した2008年秋学期
についてもう少し詳しく書きます。一年時の授業は5分の映画を完成するという大命
題を中心に進められ、実技の3クラスと理論の1クラスで構成されています。
まずは実技の「クリエイティブ・プロセス」ですが、Britta Sjogren(ブリッタ・
ショーグレン)という、華奢な印象とはうらはらなバイタリティ溢れる女性が担当
教授です。
このクラスでは5分映画の企画から脚本推敲までを、Pitch(ピッチ)、Treatment
(トリートメント)、Script(脚本)という段階を踏んでやっていきます。ピッチ
では企画を1センテンスで簡潔に伝えてプレゼンテーションします。私が「日系アメ
リカ人について無知だった日本人がアメリカでその歴史を学ぶ過程を描くパーソナ
ル・ドキュメンタリー」とピッチしたとすると、このピッチが企画した映画の内容
を正しく伝えているかをクラスで議論します。クラス全員がそれぞれ二つのピッチ
を発表し、一つを選んで次のトリートメントに進みます。
トリートメントでは、A4の紙1枚にあらすじをまとめ、Premise(プレミス:前提)、
つまりこの映画で何を描きたいのかを簡潔に書きます。例としてメキシコ系アメリ
カ人男性・Rafael(ラファエル)のトリートメントをご紹介します─ 仕事にあぶ
れたメキシコ人が怪しげな車に同乗して砂漠にやって来て、そこで穴を掘って大き
な荷物を埋めるよう命じられます。作業中に車は去り、荷物を確かめると何と死体
です。埋め終えた彼が途方に暮れていると国境パトロールの車が近づいて来て、彼
を逮捕して車に押し込みます。ここで映画は終わりますが、この後、彼がメキシコ
送還されることをラストシーンは示唆しています。ラファエルのプレミスはメキシ
コ人労働者を扱う米国政府の二重基準の告発です。都合がいい時は利用し必要がな
くなったら簡単に捨てるというわけです。こういったトリートメントをグループに
分かれて読み合い意見交換します。
次にやっと脚本です。書き上がった脚本は二稿までクラスで読み合わせのうえ議論
します。議論は白熱しますが、女性が多い我がクラスでは、特に女性の描かれ方に
みんな敏感に反応します。ギリシャ人男性・ニコの脚本は、クローズアップの連続
と詩のようなナレーションで構成される独創的で興味深いものでしたが、女性陣か
ら矢のような批判を浴びせられました。議論は白熱どころか大騒ぎになり、私には
到底ついて行けません。
しかし断片的に聞き取った言葉から推測すると、どうやら女性の身体の各部(耳、
腹、足、胸など)を順に見せる手法に反感を感じた女性が多かったようです。議論
が功を奏したのか、翌年の5月に完成した彼の作品では女性の扱いはかなり違うもの
となっていました。
こうした議論を経てピッチのアイデアは変貌し、人によっては完全に題材を変えて
しまいます。かくいう私も脚本二稿目で、それまで企画していた個人的な体験を題
材としたドラマをやめ、サンフランシスコの日本町を題材にしたドキュメンタリー
を撮ることにしました。そしてDress rehearsal(ドレス・リハーサル:ショットリ
スト、スケジュールなどを提示)の段階でさらに、ピッチとしてご紹介したセル
フ・ドキュメンタリーに変えました。しかし最終的にできあがった映画はまた少し
違うものになっています(企画の変遷の過程は書ききれないので、次回以降に簡単
にご紹介します)。
さて二稿までクラスで発表した後、Critique session(クリティック・セッショ
ン)を迎えます。担当教授とは別に3人の教授を招き脚本を講評してもらうのですが、
かなり辛辣な意見が出るので戦々恐々です。そしてドレス・リハーサルを終え、予
算、スケジュール、ショット・リスト、脚本最終稿などをまとめたプロダクショ
ン・ブックを提出すると、ひとまず秋学期は終わりです。ピッチから脚本推敲の合
間に5分映画とは別な面白い課題が様々ありましたが、こちらもまた機会があればご
紹介したいと思います。
次の「プロダクション・プラクティス1」では撮影の実際的な技術を学びました。教
授はLarry Clark(ラリー・クラーク)という男性で(『KIDS/キッズ』の監督とは
別人)、フジフィルムびいきな彼は授業でしばしば日本映画に言及します。彼に限
らず我が映画学科の先生方はアジア映画に詳しく、特に日本映画好きな先生が多い
ことには驚きました。映画学科があるファイン・アーツ(Fine Arts)・ビルディン
グの廊下には、さまざまな映画の1シーンが描かれていますが、その中に黒澤明の
『隠し砦の三悪人』もあります。
最初の授業で、まずカメラクルーの役割分担が事細かく書かれたリストを渡された
ことを面白く思いました。D.P.(Director of Photographer: 撮影監督) が監督と相
談して撮影方針を決めてカメラオペレーターに指示を出し、オペレーターはその指
示通りに撮影し、第1カメラアシスタントはオペレーターのためにフィルム装填やレ
ンズ交換をし、第2アシスタントは第1アシスタントを補助しつつカチンコを叩き撮
影記録を取る、と言ったことが6ページに渡って書かれています。この序列を崩して
第2アシスタントが直接D.P.に指示を仰いでしまうと撮影現場に混乱を来すようです。
学生の場合は実際の撮影ではせいぜいアシスタント1人とD.P.ということが多いので
すが、D.P.が1人で全部やるような場合でも、絶対にカメラマンとは呼ばずD.P.と呼
びます。職業としてD.P.を名乗る人は、カメラはもちろん照明、録音など映画制作
に関することは一通り何でもできるようです。
次にフィルムの選び方です。コダックが自社製品用に作成した宣伝ビデオを教材と
して見たのですが、宣伝用とは言えフィルムの特性をアピールしつつ良質な短編映
画に仕上がっていることに感心しました。そして露出計の使い方ですが、自分の露
出計を持つことを薦められ、私も教授推薦のセコニックのスタジオデラックスを買
いました。その次にようやく16mmカメラに触れることができました。アリフレック
ス16SRをメインに、エクレールやボレックスの使い方も教わりました。さらにアス
ペクト比や被写体深度について講義を受け、時にはサウンド・ステージ(照明機材、
大道具、小道具が揃った舞台)で、照明技術やドリーの使い方のワークショップを
受けました。
そして授業の合間に撮影課題を仕上げます。週末に各自で撮影して次の授業で上映
し、撮影時のトラブルなどを報告しつつ、教授から技術的な助言を受けます。まず
はデイライト・フィルムを使って3人編成で100feet(3分弱)ずつ野外撮影し、次に
クルーの人数を増やし、タングステン・フィルムを使って照明機材を使わない室内
撮影と使った室内撮影をそれぞれ行い、最後に好きな場所とフィルムでドキュメン
タリー撮影を行いました。私のチームは16mmフィルム撮影未経験者が多く、経験が
浅い私にもドキュメンタリー撮影でD.P.を務めるチャンスが巡って来ました。ちょ
うどオバマ大統領が当選した時期だったので新大統領をどう思うか街頭インタビ
ューし、なかなか良いインタビューがとれました。しかしアリフレックスは予想以
上に重く、片目でファインダーを覗き続けることには苦労しました。撮影したフィ
ルムはテレシネして、「プロダクション・プラクティス2」の授業の素材として使い
ました。
さて「プロダクション・プラクティス2」ではポスト・プロダクション作業を学びま
す。
教授はPat Jackson(パット・ジャクソン)という陽気なサウンド・デザイナーで、
豊富な現場経験を交えた話は面白く、教え上手で面倒見が良いという何拍子も揃っ
た先生です。『イングリッシュ・ペイシェント』のようなハリウッド映画の仕事を
メインとするようですが、日系アメリカ人監督が収容所体験を綴った『Rabbit in
the moon(月のウサギ)』というドキュメンタリーの編集もしています。春学期に
私がドキュメンタリー映画の編集過程に進んだ時にはさまざまな助言をしてくれま
した。
授業では、デジタル、アナログ両方の映像と音の編集に関して全般的に学びました。
パットの授業で出される課題はどれも楽しかったのですが、中でも私のお気に入り
はSound and Image (音と映像)という課題です。映像はシングル・スチールかシン
グル・ショットでなくてはいけません。そして722携帯録音機というすぐれものの録
音機材を使って、肉声を一つ、野外の音を三つ含んだ10の音を集めます。音と映像
をパソコンに取り込みFinal Cut Pro(ファイナル・カット・プロ)で編集しますが、
音の編集には2トラック以上使うことが条件です。私はニコと一緒に課題に取り組み、
まずはFoley stageという完全防音の部屋で録音を始めました。この部屋の床には砂
利や木片が敷き詰められた場所、木材や鉄板が敷かれた場所などがあります。その
上で歩き回り、ガラス瓶を転がし、悲鳴をあげ泣き真似をし、日本語とギリシャ語
で喋り、と思いつく限りのことをして録音しました。野外では路上でバスやオート
バイの音、海岸で波の音を録音しました。映像素材には、学校のエレベーター前の
フロアを撮影したシングル・ショットを使いました。フロアの床は市松模様になっ
ているので、それぞれの四角を踏むと悲鳴や波の音が聞こえるという設定で、四角
から四角へ跳ね回ったパフォーマンスを撮影しました。ニコと私それぞれで1バージ
ョンずつ撮影し、自分のパフォーマンスを各自が音編集しました。基本のアイデア
は同じですが、二人の特性が出た違う作品にそれぞれ仕上がりました。この基本ア
イデアは私が思いついたので、教授にもクラスメイトにもとても評判が良かったの
は嬉しいことでした。
学期の後半には、Monaco(モナコ)というサンフランシスコで唯一のフィルムラボ
へ行き、「プロダクション・プラクティス1」で撮影したドキュメンタリーをテレシ
ネしつつ講義を受けました。テレシネした画像データをファイナル・カット・プロ
で編集し、そしてまたフィルムに戻ってパソコンで編集した通りにワークプリント
を繋ぐのが秋学期最後の課題です。まずパソコンで編集済みの映画のKeycode
(キー・コード:フィルムに焼き込まれているコード)リストを打ち出し、ワーク
プリントのキー・コードを確認し、リスト通りにカットして繋ぎます。慎重に事を
進めれば難しい作業ではないのですが、我がチームはあらゆるミスを犯し、結果的
に学期を通じて一番大変な思いをした課題となりました。しかし今考えると課題で
ミスを経験できたのは良いことでしたし、当時のドタバタぶりも楽しい思い出です。
最後に理論の「ノン・ナラティブ・フィルム」です。教授はJenny Lau(ジェニー・
ラウ)というやはり陽気な中国人の先生です。授業で読んだ『Unthinking Eurocent
rism(ヨーロッパ中心主義的思考を取り除く)』と『Romance and the “Yellow
Peril”(ロマンスと「黄禍」)』はとても興味深い本でした。二冊とも日本語訳は
見つからなかったのですが、翻訳されていないとしたらそれが不思議なくらい、内
容的に日本人が面白く読めるものです。この他にもオリエンタリズムに関する文章
などさまざまなテキストを読みましたが、これらの中で、日本は国としては完全に
欧米側(搾取する側)として見なされていることに今更ながら気づきました。しか
し人種としては「黄禍」をもたらすアジア人として差別される側です。そうしたこ
とを考えていた時、アメリカ人のクラスメイトが台湾人のクラスメイトに言った
「日本はテクノロジーがあるから『西』、台湾にはテクノロジーが無いから
『東』」(台湾の技術力の高さは知られていないようです)という冗談を聞き、こ
れは『Unthinking Eurocentrism』そのままだと思いました。この本の中に「科学と
テクノロジーは西のものであると西の人間は考えるがそうではない。西と東が相互
依存してきた歴史を無視すべきではない」といったことが書いてあります。私はこ
のことをネタに提出課題を一つ書き上げました。アメリカ人のクラスメイトの冗談
をイントロダクションとして、アパルトヘイト政策下の南アフリカで日本人が「名
誉白人」という呼称を頂戴したこと、不思議にもその事実を喜ぶ日本人がいること
などを加え、『Unthinking Eurocentrism』に結びつけて書いたのですが、予想外に
良い成績をもらえました。書きかけの提出課題は二人に見せましたが、その時にア
メリカ人の彼は失言を認めて台湾人のクラスメイトに謝罪し、二人は仲直りしまし
た。サンフランシスコとはいえアメリカなので、この件のようにアジア人に関する
アメリカ人の考え方に疑問を感じることはしばしばあります。しかしこんな冗談を
みんなが言うわけではありませんし、彼はとても人柄がいい人で、アメリカに不慣
れな私と台湾人のクラスメイトを事あるごとに助けてくれました。
大急ぎなご紹介でしたが、秋学期はこういった調子でした。あまりにも大変でわけ
のわからぬままに終わってしまった学期でしたが、サイレントもしくは台詞なしで
も良い実技課題が多かったのが救いでした。
(つづく)
■黒川 通子(くろかわ・みちこ)
1971年生まれ。明治学院大学芸術学科で映画理論を学ぶかたわら、イメージフォー
ラム付属映像研究所17期卒業。1996-2007年、財団法人多摩市文化振興財団で映画事
業の企画運営を担当。財団法人日本映像国際振興協会に短期務めた後、2008年より
サンフランシスコ州立大学映画学科大学院生として映画制作を勉強中。≪近況≫2年
生になって気が緩んだのか風邪をひいてなかなか治りません。1年生の時は異常な緊
張感のせいか、心身を酷使しても元気だったのですが。前回の原稿で誤解を招いて
しまいましたが、サンフランシスコの物価は東京並みに高いです!しかし私の近所
の中国人コミュニティでは比較的安くものが手に入ります。
eizou
作ったのはこの会社:http://www.compostcreative.com/
Country clean-up project "Lets Do It 2008" / Teeme Ära 2008
http://www.youtube.com/watch?v=A5GryIDl0qY&eurl=http%3A%2F%2Fd.hatena.ne.jp%2Fktdisk%2F20090524%2F1243154905&feature=player_embedded
すばらしい。
http://playingforchange.com/
一度も会ったことのない世界中のさまざまな人が音楽を共演すること私達が協力することでこの世界のために何かできるはずだというすばらしい企画。ヒマラヤ、インディアンリザベーション、アジア、南アメリカと世界中を旅して無名のストリートミュージシャンの音楽を集める。
http://www.sony.jp/cinema-kabuki/
予告編、インタービューともおもしろい。
http://www.edius.jp/cre_lab/index.html
プリプロダクションから、撮影、編集、ポストプロダクションまで詳説。